下記、アカデミックリソースガイドに7/21(火)創刊号にて寄稿した
弊社、代表取締役社長工藤英幸による「起業・創業について」の記事全文となります。
「起業・創業について」
「起業」「創業」という言葉を聞いて、人それぞれイメージするものは違うかもしれない。
そして、経済低迷が続き失われた20年と呼ばれた近年、なぜか起業家がかっこいい、仕事が無ければ起業して作ればいいという「実態」や「リスク」をふまえない風潮が広まったのは事実である。また、起業や経営を学生時代に学んだものは、その不安定さや危険性に対する理解から、一企業に就職し有能なサラリーマンとして活躍する場合がある。
本稿は、それらに含まれない、学生時代に経営学を専攻し東京のIT企業等でプログラマー、SE、プロジェクトマネージャーとしてのキャリアを積み、その後、高齢化率で日本一、二を争う極度の少子過疎高齢化が進むふるさとでIT企業を起業し営んでいる人間の手記である。
ほぼ結論を先に述べると、起業して経営が継続できる状態とは、商品もしくはサービスを世間様に提供し、経費、人件費、税金等を継続的に支払うために必要なお金が入り、自社の支払いに困らない売上がある状態。もっとひらたく言うと、たくさんの人がたくさんのお金を払っていただければ起業は成功するが、不況が長く続いた現代に「安くて良いモノが良い。場合によっては無料が良い」という意識がどこかに染みついた段階では、それが最も難しい障壁のひとつとなり、利益を出して増やしていく難しさがある。
そして、起業・創業を、「就職・転職感覚で志す人」には、ちゃんと伝わるように「乞食みたいなもんですよ。今、仕事があるのなら、その仕事があることに感謝して続けた方が無理が無いです」と説明している。
また、自社に入るお金が借金や誰かからの投資であったとしても、起業家は何も恥じることは無く、何らかの形で継続的にお金の流れがあることが最も重要である。いわゆる経営破綻、倒産とは、お金の流れが無くなり支払うことができなくなった状態であり、起業家はそれを誰のせいでも無く、自分の責任として覚悟する必要がある。
バブル崩壊後に自殺する経営者が多発したが、支払えないお金を支払うために、自殺して生命保険や遺族年金が入った方が、支払いに充てたり家族を養うことができるため、実は最も合理的な解決策であった。
残酷な現実、現代版「切腹」に対して最大限の敬意を払いたいが、起業家は事業を成立させ成功し、お客様や従業員を含めた関わる方々を幸せにし、本人も幸せになることを前提としていくことを最も大切とし、バランスをとっていく必要がある。
高度経済成長やバブルを経過した後、実態やリスクをふまえない「やってみたいことは何か」「夢は何か」ということが、第一かのような風潮があったが、起業家が窮地に陥った場合、それらが役に立つ余地は無く、逆に起業家が、世間様に対してビジネスで役に立つことができれば、窮地から脱する可能性を見い出せる。
かつて、家が農家だったら田んぼや畑を継いで農家になり、自分の家や世間様の食べるものが無ければ、飢え死にするから米や野菜を作った。他の業種に対しても同様で、根源的に生きるための必要性があり、それが役に立つことであるから存在できた。
また、産業構造の変化という厳しい現実から、衰退し存在できなくなる業種があり、その中で、夢の実現を追える余地は限られたものである。
起業家が生き残るために必要な実力、努力、対応力等と言った表現では、筆舌に尽くしがたい、ある種、常軌を逸したものや、また他社が努力しても得られない何かを持ち合わせ、世間様から必要とされなければいけない。それは一般的な平等感の無い中で、生存競争的に結果として淘汰が進む。
しかし、逆にどんな悪条件を持ち合わせていても、自分の意思次第で起業に踏み切ることは可能である。
少子過疎高齢化が進んだ地域というのは、それに比例して経済的な衰退も進んだ地域である。また、一般的に「年金経済」と言われる地域経済の成長の見込みが少ないお金の流れの中では、苦戦は必至。
しかし、その田舎で、国道が通り他県からのそれなりの交通量がある地元最大の商業地区で育った私としては、「潮目・潮時」次第では機会を掴める可能性があり、企業経営する方の「何億単位の融資を受けて印鑑を押したから、これがダメだったらもう死ぬしかない。死なないようにがんばる」と鼓舞しながら営む話等を自然と耳にしていた経緯もあった。
実際、融資というものは、その企業から算出される返済能力を元に金額が決まるため、それだけの企業としての実績に基づく信用(お金の流れ)が無ければ受けることもできない。
そして、私自身、駆け出しの貧乏起業家にとっては家賃が高いこの地区で事務所をかまえることができなかったが、数キロ離れた別の地区にある友人の家が所有する好立地だが廃墟と化していた建物に事務所をかまえることができた。当初、その廃墟だった建物に、私ひとりしかいなかったが、普通だったら廃業している状況でも続けていたら、現在、この建物に入居している他の二事業所を合わせると数十名が所属する。半分冗談だが、この地域では随一のオフィスビル(とは言っても二階建)に発展したと自負している( *´艸`)
また、意思を持って地道に継続できるように努めていたから、微かにでも地域に貢献することが実現できているのかもしれない。
私自身、経営、経済分野に関して、学問や仕事で膨大に触れ続けてきて、触れる機会が無かった人よりも知識や理論というものに詳しい自負があるが、それらは基本的に大都会や大規模な事業の中で実証されてきたことでもあり、このような地域での実践を伴う実証を行うことには以前から興味があった。
しかし、最終的に起業に踏み切った経緯は、今思うと、ふるさとにUターンしたが就職先が無かったからという側面が強くあった。
私が卒業した高校は受験進学校であり、卒業すると地元に大学等の進学先が無いため、90%が地元からいなくなり、職業も限られているから、そのまま戻らない。
私自身、高校卒業直後に地元で排水管の工事に従事していたため、みんながいなくなった後に、それを強く実感する機会があり「これって、本当に正しいのだろうか」と疑問に思った。地域が都会に若い人を供給し続けた結果、この地域は高齢化率で日本一、二を争うまでになった。
Uターン後に、とあるプレゼンで「私のふるさとには、みんなが戻ろうとしても、戻れないんだ」と主張した。いつか弊社が発展し、雇用を一人でも多く増やし、戻りたい人がわずかでも戻れればというのが、私の起業後の願いのひとつでもある。
また、起業家が望むところを目指すプロセス途中では、お客様と何らかの形で取引や契約を行って責任を担い、それらを何が何でもまっとうできるように遂行していく必要がある。つまり、安易に起業して廃業することは、お客様や関わる人々に迷惑をかけることになるため、それを自覚していかなければならない。
私の住む地域では、起業してから1年後に見切りをつける人が多いため、その頃によく「もうやめたんよね?」と聞かれることが多く、とても驚いたことがあった。
都会であれば若者ひとりが何をしようが、簡単に見向きもされないが、高齢化が進んだ田舎であれば、若い人が(と言っても、30代後半~60代であっても若い人とされる)何かを始めるとありえないぐらいに期待を大きくもたれる場合があり、それを落胆に変えるような状況が続き、影を落としている。1年で終わるような無責任な起業は、地域のためにも最初からしないで欲しい。それが、都会であっても、どんな小さなビジネスでも、関わる人への影響等を考え、社会のためにも同様のことと思える。
そうならないためには、何が必要か?
経営の三要素とは一般的に組織運営に必要な「人、物、金」と言われる。
起業するのであれば、五年間の無収入に耐えられるだけの資金がなければならないという話を聞いた時に、以前はおおげさに感じたが、今では、ある意味、当然のことのように思える。どんなに仕入れにお金がかからないビジネスであっても、初期数年で数千万単位は無いと厳しい可能性があり、お金が無ければ物は調達できない。良い人材を集めるのも難しく、ほとんどの起業家の悩みでもある。
そして、事業形態や諸条件によっては、20年後に大成功を収める可能性がある場合もある。その時まで、存在し続けることができるか。
経営の神髄とは「不確定要素の中の意思決定」と言われ、安定を望んでは悪いというわけでは無いが、経営自体が、そもそもが不確定で危険という認識も必要であり、サラリーマンが現在の職場の条件等に不満があったとしても、起業
すれば24時間寝ずに働いても負債が増えていく歯止めのない危険性も考えられ、どんな職場も、ある意味、良いと思える面がある。
差し引かれる面があるにしても、サラリーマンの給料は、毎月、経営リスクの無い純利益が振り込まれているに等しい。
私自身、起業の相談をたくさんの方から持ちかけられるが、基本的にやめた方が良いという話をさせていただく。
その方が「これだけの強みや資金、計画があり、実現可能性が高い」と言えるだけのものを持ち得ていれば止めはしないが、そういった方からは相談を受けたことが無い。
また、知人から相談を持ちかけられ、やめるようにアドバイスしたが、逆に「自分は違う」と思って起業し、失敗してしまったことがあり、もっと強く止めておけばと、今も後悔している。
これにより、誤った「起業」「創業」に関する認識が少しでも払拭され犠牲者が減り、今ある現実に対して感謝する機会を持つことのきっかけになれば、微力ながらも本稿の執筆が世間様のお役に立ち、私も幸いと思える。
最後に、この機会を与えていただいたアカデミック・リソース・ガイド様、弊社のお客様や応援してくださる方々、この原稿を読んでいただいたすべての皆様に感謝したい。
ありがとうございます。
感謝しています。
http://archive.mag2.com/0000005669/20150721140724000.html
Academic Resource GUIDE(ARG)は、1998年7月に学術分野における
Web利用を目的として創刊されたメールマガジンであり、2009年に株式会社化、2011年には東日本大震災に被災した図書館、博物館、文書館等の情報収集ならびに支援を行い、2014年『未来の図書館、はじめませんか?』を出版する等、「学問を生かす社会へ」をビジョンに掲げ、各方面での情報・知識・サービスの創出事業を展開されています。
http://www.arg.ne.jp/
貴重な機会に心から感謝しています。